初乗務
初乗務はタクシーにおいて半日勤務である、日勤を言い渡された。早速、自分の車を点検し、いよいよスタート。当然、初日は班長が同伴してくれると思っていたが、まさかの単身営業となった。果たして俺は無事、お客さんを運べるのか?という不安もあり、クレジット決算、チケット決算、その他やたらある精算設備のシステムを使えるか不安になった。「クレジット決算を確実にやれる自信がありません」と班長に半ば懇願する形で訴えたが、「わからなかったら電話しろ、大丈夫、大丈夫」と放り出された。後々、東京のお客さんは時間短縮が宿命の人たちばかりで、ウロウロする精算に業を煮やしていたことは容易に想像できる。電話で精算を聞く時間も余裕も実はない。
早くお客さんが見つかって欲しい気持ちもあれば、手を上げられたらどうしよう?という思いもありハンドルが震えた。明治通り上で若者を乗せ、試験会場である東京工芸大学へ最初のお客さんを運んだ。裏門に着けたらしく、試験会場の雰囲気はなかったが、周回する余裕もなく降りてもらった。初めてのお使いである。
その後、詳しくは忘れたが、ひたすら低姿勢でお客さんのいうランドマーク(最寄りポイント)を降車後メモし、頭に入れた。あまりの緊張に運転よりも接客というか道を知らないケアにほとほと疲れた記憶がある。誰でもスムーズに運べる訳ではないが、こういった経験を積み重ね本物のプロになっていくんだと、改めて大東京の道路の多さ、ランドマークの多さ、施設の多さが実地で分かった感じ。
班長の一人に言われた言葉が今でも記憶に残っている。「サイトウの運んだ新米ドライバーでも710円、ベテランドライバーが運んだ料金も710円、それを頭に入れておけ」同じ710円でもお客さんにとっては安心か不安かの710円になる。なるほど、確かにそうだなと襟を正す感じで肝に銘じたのを覚えている。
今では安心、納得の420円であろうか?縄張りではそう思うが、まだまだ初めて走った道もたくさんあり、あらゆるエリアで納得できる運転が出来るか?と問えば無理であろう。それだけ大東京で走るのは情報量が多過ぎるエリアではある。その分、未知なる道が多数あり、初めて走る道は心が躍る。