街とその不確かな壁

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しばらくブログを更新していなかった。特に記すべきトピックも無かったのもある。Amazonで村上春樹の新作であるこの「街とその不確かな壁」という小説を何のためらいもなく購入してみた。逆に読まなくてはならないという必然を感じた。

まだ、序章しか読んでいないが、相変わらずの村上春樹の世界が展開され、言葉からの情景が鮮明に頭に描かれ、その空気感がまさに村上春樹だなと改めて恐れ入る感じがした。ノーベル文学賞の川端康成の小説も同じような没入感があり、この異常なまでに本に入りきる文字構成が偉大な作家の特徴である。

短編の情景を70に分散させ一つの物語を描いている。原稿用紙1200枚の長編小説であるので、ひとつのエピソードから現実に戻り、また本へ入ることを時間の許す限りやるのだが、やはり一気に読み終えた方がより大きな臨場感を生むであろう。何気にページ最後の後書きを読むことになり、この作品の原点が40年前の本にならなかった小説の焼き直しというか、改訂完全版であることが書かれてあり、逆にその時間の経過がより不思議な村上春樹ワールドを推し進めている感じがした。そして、著者のもやもやであった完筆が完成されたようなことが書かれてあった。

世俗というか現実を超越して入ることのできる村上春樹ワールドは、本を愛することができる人間が体験できる特殊なエンタメのような気もしてくる。文字を読み、想像できない人間には決してこの感覚は分からない。

とにかく村上春樹ワールドの純愛という部分が心に染み入り、青春時代の淡き恋心というか、イノセントな自分が蘇ってくる。そして穢れている今の自分に諦めというか、新しい人生の有り様を幾分か示してくれる気もする。

作者自身もどこで完結するか分からず書いていき、漠然とその完成を感じ、書き終える手法というか、その手順にこれが小説家なのかという奇異性も驚く部分でもある。音楽家、芸術家とも同じ感覚であるのかもしれない。やはりその感覚を体現できるのがアーチストなんであろう。

日常の暮らしから一時的にトリップしたい人、小説というアートを体験したい人に薦める。まぁ薦めなくてもその世界を前から知ってる人は買うであろうし、文字アートの体験をしたことのない人間には一生買わないものであろう。