タクシードライバーぐるぐる日記

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内田正治さんが書いたタクシー本で同業者ともあり、共感する部分もあり購入してみた。実はこのフォレスト出版の日記シリーズはいつか書店で発表したいと思っていたが先を越されてしまった。なかなか哀愁のあるとこもあり、自分もデビュー時代のペーパータクシードライバー時代を思い起こす場面もあった。タクシー運転手の本を読むのは2度目で、その両者とも営業収入に関しては並のドライバーであった。やはりどちらともお客との憤慨シーンや感動シーン、無理客など書き描かれ、俺ならこう対応するのにといった見方もあり、タクシードライバーに興味のある方は読んでみるのもいいだろう。2時間くらいで読み切れるものである。

文章を読み進むにつれ、この内田さんと僕は同じ営業所だったのだと思えてきた。500台もあるタクシー会社は限られており、名前は書いていないがKm北千住営業所かKm千住営業所のドライバーであったであろう。単純にタクシー台数掛ける2.2人のドライバーが適正人数であるので1100名のドライバーがいて、よほど親しくないと他のドライバーの名前、顔は覚えられない。

タクシードライバーには誰でも体験する地理に疎く困った描写もあり、僕の記憶だと3年くらいは地理の不安の中で腰を低くしながら客の罵倒にも耐え仕事をしていたと記憶にある。ある程度、自分のテントリー(縄張り)が出来ると進行するパターンは決まっているので悩まない。そのパターン覚えの最中に接客に苦しみ辞めていく人間もいる。僕の場合、運転が全然苦でなかったので続けられたのもある。10年も営業すると自分の縄張りでは最速、最短で届ける自信があったので、特に女性客の方向音痴が慣れないスマホで案内する様子に逆に「最短最速で届けるから、目的地だけ言って」と言って、頭にきた客が降りたこともある。

タクシーは最大公約数12のサービスを心がけると考えている。要は1,2,3,4,6,12のお客さんは割り切れて気持ちいいが、その他の数字のお客さんは割り切れなくて気持ち悪い。どんなスーパー運転手もあらゆるお客さんから満点を取ることはできない。必ず、クレームまでには発展しないまでも、わだかまりを持って降りる客もいよう。例えば、最近の日本人独特のDNAに刻まれたクレームリスク回避がある。法人営業では必ずコース確認をしろと言われる。それは仮に大渋滞に巻き込まれて料金が多くかかったり遠回りした時も、「それはお客さんが指名したコースですからしょうがないじゃないですか」という言い訳を許すためにコース確認をする。まさに僕に言わせれればリスク回避の言動である。自分の縄張りで仕事をする場合、コース確認もしない。なぜか?最短で走れる自信があるのに、わざわざ聞かない。それがプロであろう。「いちいち説明しなくて届けてくれるから助かる」という客もいれば、そのコースしか基本ないのに「なぜコース確認をしないんだ」とクレームする客もいる。そんなんでどんなサービスも全員に納得のいくサービスは届けられないというのが僕の持論である。まぁ勝手な解釈ではあるが。

ミシェラン5星の話しをたまにする。すると言っても1回しかないが。お客さんはメニューを見て注文するでしょ。誰も厨房に入って、肉の焼き方、胡椒の量など指示しないでしょ。それと同じで目的地(料理名)は伝えてもらうが、どんなコースで行くかは運転手(料理人)のやり方で行くのがプロだと信じてる。「六本木通りを1000回以上通り、信号の間隔も身体に染み込ませ、50万キロ以上都内を走っている俺がこのコースが最短、最速だと自負している道以外で早く行ける道なんてあるんですかね?」と気のいい紳士に聞いたとこ、「運転手さんの言う通りだな」と回答をもらったことがある。別に奢っているわけではなく、それだけ走り込んだ縄張りでの素直な意見。それでもクレームはある。価値観の違いってやつか。

タクシーセンター案件になればなったで、それは僕の魂の修行。まだまだ修行が足りないという神様からのメッセージとして受け止めている。死ぬこと以外はかすり傷。僕のぐるぐる日記はまだ続く。しかし、AIが発達してフリーエネルギーが解放されて、空中タクシーが出来たのなら僕らの仕事はなくなる。遠い未来でなく、すぐそこの未来で。